哲学っぽいメモ

素粒子知覚人の思考実験

さきほど、心の哲学、認識論、現象的意識に関わる思考実験を思いついた。たぶん、このような思考実験の先行する文献はないものと思う。 次のような人々を考えてみよう。彼らは、電子、陽子、中性子の位置を正確に直接知覚することができる(ここでは、電子・…

道徳の可謬主義

実在論? 英米哲学系統のメタ倫理学においては「道徳的実在論」にはそれなりの支持者がいる。ただ、ここで「実在論」というとき、英米哲学の他の分野と同様、二通りの意味を区別するべきだろう: 道徳的命題に真偽がある(あるいはもっと弱く─道徳に関して合理…

超越論的論証・意味の全体論

一般論として「超越論的論証」というやつは疑わしい。しかし、大雑把に言って「僕の信念はほとんど正しい」という、このいっけん超傲慢、超独断的にみえる超越論的論証は正しい、少なくとも真剣に考慮するに値するように思われる。それはこういう議論である:…

逆転スペクトル人(2)

逆転スペクトル人の思考実験について気づいたことがあるのでメモ。まず、逆転スペクトル人の思考実験のあるバリエーションを考えてみることにする: この地球を離れたはるか彼方、宇宙のどこかに、この天の川銀河とそっくり同じ銀河があり、この太陽系とそっ…

志向性

言語における指示、つまり、ある発話のある単語が何かを指示するということは、言語の使用の一種なのであって、他のさまざまな言語によるコミュニケーション、命令、懇願、求愛、挑発、侮辱と同じように失敗したり、成功したりする、という考え方は理解でき…

美的性質について・芸術の進歩について

アニメやマンガが大好きで、クラシック音楽やバレエや絵画のような「正統な」アートにあまり興味のない僕が「美」について語るなんてかなり抵抗があるんだが、二つのメモ。まず、僕はいまのところ「美」そのものはともかく、美的性質、つまり、かわいいとか…

精神の物理現象への還元可能性

何を言いたいのか分からないけど、そのまま。中山『現代唯名論の構築』も、パトナム『心・身体・世界』も、精神(心)の物理学の言語への還元可能性を、あっさりと必要のないものだと退ける。僕はジェグウォン・キムの著作をちゃんと読んでいないので公正で…

なぜ、フィクションに基いて語れるのか?

なぜ、僕たちがフィクションに基いて語れるのかが、さっぱり分からない。可能世界論を真に受ければ説明がつくだろうが、しかし、そもそも、可能世界に基いて語れるということ自体が、フィクションに基いて語れるということを前提にしているようにも思える。…

自然科学はなぜ成功したのか?

私たちの住んでいる世界が、たまたま、そういう世界だったから*1。例えば、僕たちが住んでいる世界が神様が天地創造して、動物や人間も一瞬にして創造した世界だったのであれば、自然科学の成功はもっと限定されたものだっただろう。しかし、僕たちの住んで…

クオリア

まず、クオリアによる説明は、「カルテジアン劇場」的な構図、つまり僕の頭の中ないしは心の中にクオリアが存在して、そしてそのクオリアを観察しているという構図で理解しては、何の魅力もない。その頭の中のクオリアを観察しているのは、いったい誰なのか…

クオリアと感じ方

クオリアを持ち出さなくては説明できないような問題というのは存在しないように思う。クオリアが持ち出される問題は、クオリアが担っている説明力を選言的説明と、対象の'''感じ方'''に移し変えることによって、同様に説明することが可能だろう。 私が黒鉛を…

道徳の実在性

実在論の基準は二つあるといってよいだろう: 命題の真偽に認識超越的に決まる - つまり、「〜が正しいと考える(思う/認識する/感じる)」ということと、「〜が正しい」ということが異なる 認識超越的な存在者がある - つまり、「〜が存在すると考える」と…

嘘をつくことは道徳的に悪いことか?

初期仏教典は、嘘をつくことを強く戒めている。ただ、その根拠は示されていないか、示されているとすれば「めぐりめぐって自分の身を滅ぼす」というのが中心のように思える。もし後者であるとすれば、それは、利己的な、そして、ときには説得力に欠ける根拠…

主観的・客観的

「主観的」と「客観的」という言葉は、多義的すぎて使いにくい。とりあえず、思いつく限り: 「心理的」と「非心理的」*1 「属人的」と「非属人的」*2 「真理値が定まらない(あるいは規約の問題)」と「真理値が定まる」 「意見が収束しない」と「意見が収…

「科学は道徳に干渉しようとするべきではないのか」の一部再論

道徳的判断(あるいは道徳的推論、道徳的議論)をいうものが、弱い意味でよいから「合理的」なんだとしましょう。例えば、Aさんは「基本的には、嘘をつくよりは、つかないほうが良い」という道徳観を持っていて、それなのに、誰の利害にも関わらない場面で、…

道徳の外在主義

安藤馨『統治と公理』*1を読み直す(いま途中)。読み返しての最大の疑問点は、道徳の外在主義的実在論なんて、説得力があるのだろうか、というものだ。 内在主義の実在論者は、道徳的信念と行為との間に何らかの内的連関が存在するという考え−すなわち、道…

「認知的価値」について・道徳についての合理的議論の可能性について

米国の哲学者ヒラリー・パトナムは、道徳的な議論の合理性についての擁護の文脈で、科学における「認知的価値」について論じる: 古典的プラグマティストであるパース、ジェームズ、デューイ、ミードはすべて、価値と規範性は経験のすべてに浸透していると主…

抽象化

パトナム『心・身体・世界』を読み返した*1。「唯物論的デカルト主義」をとると、心を物理学にをどう還元するのか分からなくなる。パトナムの記述から離れるが、ここで問題となっている還元とは、次のようなものだ: 私たちが「心」について日常的に考え、表…

正義と善・法と道徳・道徳実在論

気づいてみれば当然のことだが、僕が道徳実在論に固執する理由は、僕が現代リベラリズムの基本的な方針である正義と善の分離、ドゥウォーキンのような法と道徳の分離などに懐疑的であることとつながっている。正義と善の分離、または法と道徳の分離を、何か…

道徳の実在論と自由抑圧

道徳の実在論は、必ずしも全体主義や自由抑圧的な政治体制・政策に結びつくわけではない。単純に、人間の自律、市民の自由といった道徳的価値を認めればそれでよいのだ。実際のところ、道徳実在論者で、全体主義や自由抑圧的な政治体制・政策を強く支持して…

自然の斉一性と真理の対応説

自然の斉一性という考えは、真理の対応説を内包しているように思う。仮に、真理を「実証された理論」あるいは「実証的な研究の極限において到達する理論」によって定義するとする。そうすると、宇宙の地平面より向こうの事象については、真も偽もなく、それ…

デカルト的懐疑

以前のエントリで「価値と事実の領域分割」という言葉を使ったが*1、パトナムの「自然な実在論」やサールの直接実在論の立場、ローティの「自然の鏡」への批判は、いうなれば、主観と客観の領域分割への批判ということができるかもしれない。いま自分は赤の…

科学は道徳に干渉しようとするべきではないのか

はじめに 端的に言って、私は「科学は道徳に干渉しようとするべきではない」というような考え方に否定的で、これに固執するべきではないと考えています。「疑似科学批判・批判」の一連のエントリについて、田部勝也さんからいただいた批判の一部は、この考え…

真理について

さっき、ふと、デイヴィドソンの真理観の一面が理解できたような気がする。そして、その真理観は説得力があるように思う。たしかに、僕は、僕自身の信念体系の外側に出ることができないから、僕の信念と事実との一致を確認することはできない。このデカルト…

理性と啓示

ギリシア教父の時代以来、キリスト教神学には理性による知識と啓示による知識の二項対立がある。ユダヤ教が、キリスト教、そしてイスラム教や(一部の?)教派神道と同じく「啓示宗教」と呼ばれるように、啓示による知識というアイデアは、キリスト教独自の…

功利主義への批判について

功利主義への批判に、サバイバル・ロッタリーがある。しかし、サバイバル・ロッタリーにせよ、他の功利主義への批判となる思考実験にせよ、どれもこれも現在の僕たちからはあまりにかけ離れたメンタリティを持つ人々を想定した議論になっている。快楽殺人者…

規範についての知識

偉大なるカントやその他の人々に抗して、規範の知識とは経験的知識であり、それに反すれば自分にとって悪いことが起こるという予測である、という考え方にここ数日魅力を感じている。つまり、「殺人が悪いのは、それを行えば警察に捕まるからだ」*1という類…

反証主義

ポパーの反証主義は、検証の全体性、観察の理論負荷性によって否定されるといわれる。これに対して、ポパーは観察の理論負荷性の認めていると再反論される。さて、ポパーはたしかに観察の理論負荷性を認めているが、その解決をどこで実験条件や背景理論への…

不信仰告白

私は、因果法則としての道徳的応報を信じません。 すなわち、善悪、正義・不正義といった事物、事態、あるいは行為のクラスが、それが -快を善とみなす功利主義のように- より自然主義的な物理的性質のクラスと同定されない限り、また私達人間の精神による判…

「善」という用語

倫理学とは、おおざっぱに言って、「善」に関する学問だ。倫理学では、「善」「善い」というタームをよく使うけど、だまされてはいけない。これは英語の"good"に相当する言葉なのだ。だから、うまい料理も、すばらしい音楽も good = 善 だし、そろえて集めた…